こころの案内人のブログ

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平凡なゲイの元サラリーマンがトークライブに出演した話

 渋谷にあるカウンセラー学院『アイディアヒューマンサポートサービス』では、ベーシックなカウンセリング講座だけでなく、多彩なカリキュラムが展開されています。『セクシュアルマイノリティサポートカウンセラー養成講座』もそのひとつ。その11月の講座のトークライブゲストとして、筆者がお招きをいただきました。
 ゲイの当事者ではあるものの、30年間平凡な会社員として過ごしてきただけの私。しかも、会社員の間はカミングアウトしてなかったのです。大したエピソードも無い私ですが、平凡が故のリアルなゲイの生き様(?)を語らせていただきました。今回は、そのトークライブを振り返らせていただきます。

【目次】

◆1.「何も悩まなかったですね」で失笑を買う
1)辛いことを忘れていた
2)ラッキーだった私

◆2.しんどかった三十代
1)「二重生活」を感じ始めた三十代
2)「なぜ、いちいち言いたがるの?」という疑問

◆3.トークライブを経験して
1)何かに縛られてはいるけど・・・
2)いただいたアンケートから

「何も悩まなかったですね」で失笑を買う

1.辛いことを忘れていた

↓ トークライブの様子(ファシリテーターの織田貴子先生と。 ニヤけているのが私・・・)


 「何も悩まなかったですね・・・」これは、就職活動をするときに(ゲイであることで)何か悩まなかったかという質問に対する私の回答です。答えた瞬間、受講者から薄い笑いが漏れました。私があまりにもあっけらかんと答えてしまったからかもしれません。でも、本当に就職で悩むことはなかったのです。トランスジェンダーの方々の場合、企業などの組織に入る際に問題が発生する場合がありますが、ゲイであることで就職に困難が生じることは少ないのではないでしょうか。
 私が社会に出たのは1986年。ゲイという言葉もLGBTという言葉もありませんでした。当然、LGBTフレンドリーを謳う企業などあるはずもありません。自分がゲイであることはちょっと横においておいて就職活動に臨む、それが当然だと思っていました。 

  ゲイとして生きていると辛いことの一つや二つはあるはずで、私にもありましたが、いざそれを話すとなると意外と忘れているのです。私にとって一番辛かったのは三十代だったと思うのですが、その時のことすら結構忘れている・・・。事実は覚えていても、その時の辛さや痛みなどの感情を忘れているので、リアリティのある話ができず受講者には申し訳なかったと反省している始末です。
  

2.ラッキーだった私


 
 自分がゲイとして生きていく上で、ラッキーだったことが二つあります。ひとつは、ゲイであることを割とすんなり受け入れることができたこと。もうひとつは、両親が結婚を迫るようなことがほとんどなく、自由に生きることを認めてくれたことです。

 私がゲイだと確信したのは17歳、高校2年生の時です。ちなみに、厚労省が調査した「ゲイの思春期におけるライフイベント平均年齢」によると、「ゲイであることをはっきりと自覚した年齢」は17.0歳という調査結果が出ています。まさにドンピシャ。ここでも私は”平凡”いや”平均”のようです。
 自分がゲイであることを受け入れることができなかったり、強く不安を抱いたりする人もいる中、当時の私は「ああ、そういうことだったんだ」と妙に納得していました。ずっと抱いてきた「なぜ男性に興味があるのだろう?」という疑問が解消して、寧ろスッキリしたくらいです。そして、その時「ホモに生まれてきたのだから、一生独身で生きていく」と17歳ながらに覚悟していました。この強い気持ちが、後々私の支えになったように思います。

 私は、両親にカミングアウトしませんでした。薄々気づいていたかもしれませんが、特に詮索されたことも結婚について追及されたこともないのです。両親の気持ちを思うと、これをラッキーと言ってよいのかどうかは考えものですが、私の気持ちの負担が大いに軽くなったことは間違いありません。
 

2.しんどかった三十代

1.「二重生活」を感じ始めた三十代

 
 
 二十代の私は、積極的にカミングアウトする気はありませんでしたが、(ゲイであることを)職場に知られたら知られたでいいやと思っていました。若かったせいもあるのでしょうが、良く言えば「自然体」、悪く言えば「世間知らず」、間を取ると「怖いもの知らず」でした。「自然体」ですから悩むことはありません。働くこと、同僚とコミュニケーションを取ること、ゲイの友人と会うこと、すべてに垣根がなく私にとってはひとつの世界でした。この時の勤務先はベンチャーで、少人数で家族的な雰囲気であったことも大きく影響していたように思います。

 それが、徐々に変化してきたのは三十歳に転職してから。転職先は今までよりも大きな企業です(後に上場)。色々な価値観や個性を持った方々と働くことは、私を成長させる上では大変有意義でしたが、今までのようにはいかないことを予感させるものでもありました。折しも年齢は三十代。恋愛や結婚が話題にのぼりやすい年代です。当時は1990年代。今ほど婚姻率は低くなく、結婚するのが「当たり前」の時代です。「彼女いるの?」「彼女どんな人?写真見せてよ」「身を固めてこそ一人前だからな」・・・。結婚圧力がこんなに鬱陶しいものとは思いませんでした。
 この時、自分の中に「異性愛者のふりをする私」と「ゲイである私」の二つが存在することを自覚します。カミングアウトすれば「一つ」になるわけですが、デメリットの方が大きいと考えやめました。この二つの自分を使い分ける「二重生活」がこれからずっと続くのかと思うと、どっと疲れが出る思いであったことを記憶しています。
 

2.「なぜ、いちいち言いたがるの?」という疑問

 
 
 今回のトークライブでは質問が出ませんでしたし私も触れなかったのですが、ストレートの方から次のように聞かれることがあります。「なんで、ゲイは自分の性的指向を話したがるのか?我々はいちいち女性が好きだ、男性が好きだなんて言わないのに。」

 私はカミングアウトに積極的な方ではありません。仰る通り、いちいち話さなくてもいいのではないかと思っていたからです。そんな私でも、職場において思わずカミングアウトしてしまいたいという衝動に駆られたことは何度もありました。それくらい「二重生活」に抑圧されているのです。加えて、自分の性的指向を偽ると、思いのほかコミュニケーションが取りづらいことも感じました。そんなわけないじゃないかと思われるかもしれませんが、これは私自身の予想を上回るものでした。互いの自己開示が多いほど信頼は高まり、本音で語り合えるからではないでしょうか。
 自分の性的指向を打ち明けたくなるのは、「理解してほしい」という気持ちも勿論ありますが、「自分を偽る苦しみから解放されたい」という気持ちの方が大きいように私は感じています。
 

3.トークライブを経験して 

1.何かに縛られてはいるけど・・・

 
 この世には男と女しかいない・・・昭和歌謡の歌詞に出てきそうなフレーズです。男性は女性を、女性は男性を愛する、結婚し家庭を持つことが一人前の証、これらを当たり前のことのように私たちは考えています。だからこそ「結婚まだ?」と聞きたくなるし、男性に対しては「彼女いるの?」女性に対しては「彼はいるの?」と聞くわけです。社会の制度もこれらを前提に作られています。

 私たちは、この「当たり前」にある意味縛られて生きています。私もそうでした。多分今もそうです。ですからゲイであることを隠して生きていました。私が19歳の頃(1982年)、お付き合いしていた30歳の男性に言われた言葉があります。「ホモは、人一倍仕事を頑張っていかなければならないんだよ。」
 
おそらく、二つの意味があったと思います。ひとつは「ホモは一生独身の可能性が高い、独身であることは組織ではハンディになる、そのハンディを跳ね返すには仕事で成果を出すことだ」、もうひとつは「仮にホモであることを知られても、仕事ができる人間であれば後ろ指は差されない」。

 この言葉も、思い切り「当たり前に縛られている」のですが、良くも悪くも私はこの言葉に支えられてきました。目の前のこと(私の場合は大部分が仕事でしたが)に集中し、ひとつひとつ大切にこなし、社会と折り合いをつけながら生きていく、その積み重ねが私の中から「辛さ」を忘れさせてくれたのだろうと考えています。 子どもの頃には「おかま、おとこおんな」と言われたこともあります。社会に出てからも嫌な思いをしたこともありました。ただ、私の場合は、その人たちも含めた周囲や社会に対してどうこうというよりも、自分はどうしていくのかということを大切にしてきたように思います。

 今回のトークライブは、自分を振り返る良い機会となりました。自然体でいられた20代、少々生きづらさを感じてきた30代、この違いは何なのか。自分自身の変化、環境の変化、ライフイベントの推移、色々考えられますが、今後考えを深めてみたいと思っています。
 このような場を与えていただきました『アイディアヒューマンサポートサービス』様には、あらためて感謝申し上げます。

2.いただいたアンケートから

・LGBTの方に限らず、まず自分を受け入れることが大事なのだと思います。それができずに自己否定感に囚われて生きる人生は辛いものです。その上で、社会の中で折り合いをつけていくというのは、多分、LGBTに限らず誰にでもある課題なのだと思います。

・つきつめていくと、LGBTも含め、その人の生き方、どう生きていくかだと思いました。

・芯を持って社会の中で働きながら自分を持ってらしたことがわかりました。

・井上さんが自己否定感が無いのはすごいなと思いました。自分はトランスジェンダーですが、組織に入ると自己否定感ばかりになって、やっていられないので。アイデンティティの迷いのない状態に持っていければと思います。

 

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・カウンセラープロフィール

井上伸郎

井上伸郎

カウンセリングルーム「こころの案内人」の代表。セクシュアリティに関わらず様々な方々の「悩みの解決」や「目標の達成」を、解決志向型カウンセリングによってお手伝いしています。

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