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小室哲哉さんの会見に垣間見える「人生の午後」における喪失感

 ミュージシャン・音楽プロデューサーの小室哲哉氏が、週刊誌の報道を受け記者会見を開き、その場で引退を表明しました。週刊誌によって報道された小室氏の女性問題だけでなく、週刊誌の報道姿勢から介護問題まで議論(?)は広がっているようです。
 筆者は、会見内容の中で割合は少ないものの「自身の衰え」について言及した部分に注目しています。90年代の日本の音楽シーンを席巻した敏腕プロデューサーも、還暦を間近にして衰えを感じ苦悩するものなのですね。今回は「人生の午後」を過ごす中で訪れる「喪失感」について考えていきます。
(会見内容については、「AERA dot.」の「小室哲哉会見の100分全記録」を参考にいたしました。)

【目次】

◆会見の内容
1.会見のポイント
2.自身の衰えについての発言 

◆喪失と向き合う中年期
1.「人生の午後」と「中年の危機」
2.「喪失」を受け入れることが中年後期の課題
3.仮にすり替えていたとしても

会見の内容

1.会見のポイント

 小室氏の会見内容をご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単にまとめます。

  1. 小室氏の奥さんであるKEIKOさんの病状について
    2011年10月にくも膜下出血で倒れたKEIKOさんは脳に後遺症が残り、最近は小学4年生の漢字ドリルを楽しむ生活を送っているとのこと。小室氏が一番ショックだったのは、歌手であったKEIKOさんが音楽に興味を示さなくなったことだそうです。また、KEIKOさんとの会話は3分しか持たなくなっているとのこと。
     
  2. 小室氏自身の体調不良
    KEIKOさんのサポートと仕事が重なる中、小室氏自身も体調を崩しC型肝炎で入院したとのこと。現在は陰性になったそうですが、仕事に復帰した2016年ごろから難聴になり、会見中もキーンという音が鳴りっぱなしと仰っています。医師の診断は、ストレスによる摂食障害、睡眠障害。
     
  3. 週刊誌報道の件について
    看護師の女性が往診に来てくれ、雑談に付き合ってもらったとのこと。小室氏が自身の仕事に悩みを抱く中、妻のKEIKOさんに悩みを打ち明けるも音楽に興味を失っているKEIKOさんの反応は鈍く、看護師の女性への依存が強くなってしまったそうです。5,6年前から男性としての能力がなく、精神的な支えのみであったとのこと。看護師の女性には甘えていたと思うが、助けてもらい感謝しているそうです。
     
  4. 引退について
    看護師の女性への依存が強くなるタイミングで週刊誌で報道されたことは、自分への戒めと思っているとのこと。この騒動のけじめとして引退を決意。音楽の道を退くことが罪滅ぼしであると思ったそうです。
     
  5. 介護問題について
    この10年、介護の大変さや今の時代のストレスに触れてきた。高齢化社会に向けて、こういったこと(記者会見の内容)を発信することによって、何か響けばよいと思っているとのこと。

※仕事上のことなど自分の衰えについての発言内容は、別途次の項目にまとめています。

2.自身の衰えについての発言

 


 小室氏の仕事である音楽活動についての悩みを中心に、ご自分の衰えについて言及している箇所をまとめました。

  1. 10年前、20年前では考えられなかったことだが、1週間悩みに悩んでやり直しということもあった。期待に応えられるレベルなのか。やり直しやり直しということも増えてきた。不安、自信のなさということが日増しに増えていった
     
  2. 自分の身体的な限界であるとか、この音楽界、エンターテイメント界に僕(小室氏)の才能がほんとうに必要なのか。もはやここまでだな。音楽の新しさみたいなものを作れるものがあるのかな、という自問自答を続けてきた。
     
  3. (90年代から)20年以上経っているので、枯渇している能力、自分でも飽きてきている、みなさんも飽きてきているのに、認識の甘さがあった。
     
  4. 93年、94年から2000年くらいがブームだったと思う。それが基準になり、それを超えることはできないし、それを下回ると期待に応えられないという感覚。
     
  5. (会見が終わって)1人になって、何てことを言ってしまったのだろうという悔いが出てくる可能性は十分にあると思う。悔いなしなんて言葉はひと言も出てこない。 

 

喪失と向き合う中年期

1.「人生の正午」と「中年の危機」

  40代を「人生の正午」と名付けた心理学者のユングは、午前から午後への転換期が人生最大の危機になるとし「中年期の危機」と呼びました。

 午前は自分自身が太陽のように上昇していく時期ですが、正午に頂点に達すると下降に転じます。この「人生の正午」は事前に知ることはできず、突然に訪れます。午前の上昇中には無限の可能性を感じていた人が、突然に陰りを感じるのです。そのきっかけは色々あります。例えば、身体的な衰えを感じたとき、仕事に対して頑張りが効かなくなったとき、以前のような情熱や喜びを感じられなくなったときなどです。陰りを感じ始めると、以前とは違う自分に愕然としてしまうこともあります。もはや、自分の人生は上昇中ではないのだということに気づいてしまうのです。

 小室氏は現在59歳。一般的には中年の危機は過ぎている年齢ですが、先に挙げた「自身の衰えについての発言」を見ると、以前とは違う自分や能力の限界について述べられており、もはや上昇中の人生ではないのだという寂しさが感じられます。

 この点は芸能人でも一般の人でも変わりはないのではないでしょうか。特に小室氏には「CD等の売上を上げレコード会社に貢献しなければならない」という役割があり、芸術家というよりは企業人に近い立場にいます。長年身を置いてきた音楽業界において、自分は必要とされていないのではないかという小室氏の不安。これは、長年企業に勤めながらも今後の昇進が見込めなかったり、役職定年を迎えたり、畑違いの部署への異動を命じられたりといった企業人と共通するものがあると思われます。この時にどのように生き方や価値観の転換をはかるかが中年前期の課題であり、その後の人生に影響を及ぼします。
 

2.「喪失」を受け入れることが中年後期の課題



 中年前期は、中年の危機に代表されるように「自分の生き方の見直し」を迫られます。そして、中年後期(55~64歳)に入ると、さまざまな「喪失」を体験します。
 職場では、定年退職を迎える年齢です。現在は再雇用が義務付けられていますが、それも終わりに近づきます。家庭では、子どもが独立します。自分の両親を見送るということもあるでしょう。身体的にも衰えを感じ、死ということが現実味を帯びてきます。
 このようなさまざまな「喪失」を受け入れ、新たな人生を作り上げながら歩むことが、この時期の課題なのです。

 小室氏は自身の健康不安に加え、KEIKOさんに障害が残ったことは、これもひとつの「喪失」と言えるのではないでしょうか。もちろんKEIKOさんは生きていますし、45歳とまだお若い。しかし、小室氏が一番ショックだったこととして挙げている「KEIKOさんが音楽に興味を失った」ことに象徴されるように、非常に短期間にKEIKOさんは別人のようになってしまいました。このことは、語弊がある表現かもしれませんが、死に匹敵するくらい小室氏にとってはストレスになったものと思われます。
 しかしながら、小室氏はそれを乗り越えKEIKOさんに向き合いサポートなさっています。そして、引退も含めた新しい生き方を模索なさっているのでしょう。

3.仮にすり替えていたとしても

 今回の小室氏の記者会見について、自身の不倫を引退にすり替え、さらにKEIKOさんの介護や自身の体調不良などで精神的に参っていることを言い訳としているという批判も少なからずあるようです。しかし、仮にすり替えていたとしても、会見で語られたKEIKOさんとの関係や自身の衰えについては、小室氏の本音であったのではないでしょうか。

 また、小室氏のような大きなストレス状態にある場合、誰かに助けを求める、愚痴を聞いてもらう、支えてもらうという行動は適切です。一般的に男性は助けを求めない傾向にあります。ただ、今回はそれが女性看護師であったことで問題になってしまいました。そして、小室氏は不倫は否定しつつも、誤解を招いたとして謝罪をしてしまいました。不倫があったかどうかはともかく、小室氏にとっては支えになる人を失ってしまう結果となりました。
 

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井上伸郎

井上伸郎

カウンセリングルーム「こころの案内人」の代表。セクシュアリティに関わらず様々な方々の「悩みの解決」や「目標の達成」を、解決志向型カウンセリングによってお手伝いしています。

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