こころの案内人のブログ

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LGBTへの理解は進んだのか~読売新聞の記事から~

 筆者は、読売新聞の「人生案内」を愛読しています。これは、いわゆる人生相談コーナーで、寄せられた悩みについて専門家が回答するというもの。毎日掲載されるさまざまな相談・悩みに対して、自分だったらどのようにアプローチするか考えています。
 平成が30年を迎え、1月に平成の「人生案内」を振り返る記事がシリーズで掲載されました。その中に「LGBTへの理解進む」という記事があります。平成初期から現在に至る相談内容の変化から、LGBTへの理解が進んだのではないかという内容でした。今回はこの記事のように、30年間でLGBTへの理解は進んだのか考えてみたいと思います。

【目次】

◆記事の内容
1.相談内容の変化
2.性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
3.同性カップルに証明書を発行する条例 

◆本当に理解は進んだのか
1.情報の増加と理解
2.性同一性障害者特例法の意義と課題
3.同性パートナーシップ条例の意義と課題

◆これからの30年

記事の内容

1.相談内容の変化

 記事は「平成は、性的少数者に対する社会の理解が進んだ時代だ」という書き出しから始まります。その理由として「人生案内」に寄せられた相談内容の変化を挙げています。

 まず、平成の初め頃はLGBTに対する偏見が強く、周囲に受け入れられない苦しみやあきらめの感情をストレートにつづった相談が目立ったとしています。例として、「ゲイを自覚しながらもそのことを告白できず、自分は独りぼっちであるという60代の男性」、「愛し合っている彼はいずれ家業を継がなければならないので、別れた方が彼のためだと思うという男子高校生」、「心と身体の性の差異に悩み、将来はもっと苦しいだろうと考えると死にたくなるという男子学生」の3件を挙げています。

 そして、性的少数者の悩みは現在も尽きないとしながらも、最近の相談内容は自分を否定する内容が減り、自分らしさを受け入れて社会との関わりを模索する姿勢が感じられるとしています。例として、「付き合っている男性を親に紹介したいという30代男性」、「生物学的には女性だがこころは男性。男として生きていきたいが就職活動が不安という大学3年生」、「好きな女性がいるが、自分の気持ちを受け入れ幸せになりたいと思えるようになった。性的少数者について正しく理解できたからという20代女性」の3件を挙げています。

 また、記事では、相談内容の変化の背景にある社会的変化を指摘しています。具体的には、2003年(平成15年)に成立した「性同一性障害者に戸籍上の性別変更を認める法律」と、2015年(平成27年)に東京都渋谷区で施行された「同性カップルに証明書を発行する条例」を挙げています。

2.性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

 


 新聞記事で社会の変化として挙げられた「性同一性障害者に戸籍上の性別変更を認める法律」について説明を加えておきます。

 この法律は、2003年(平成15年)7月に成立し翌年施行された『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律』のことで、通称で「性同一性障害者特例法」と呼ばれています。
 戸籍を変更するには、まず性同一性障害と診断されなければならず、診断できる知識と経験を有する2名以上の医師からの診断が必要です。さらに、性別変更の要件として次の5点を挙げています。

  1. 二十歳以上であること
  2. 現に婚姻をしていないこと
  3. 現に未成年の子がいないこと
  4. 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
  5. その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること

この法律がもたらした影響と問題点については、次の項目で述べることにします。

3.同性カップルに証明書を発行する条例

 「同性カップルに証明書を発行する条例」について、渋谷区の条例を例にして説明を加えます。

 渋谷区の条例の正式名称は「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」で、2015年(平成25年)3月に成立し、同年4月1日に施行されました。
 これは、同性間のパートナーシップを認める条例で、渋谷区に在住する20歳以上の同性カップルに、公正証書の作成を条件として証明書を発行するものです。成立当初は「同性婚」という表現で報道されることもありましたが、同性間の婚姻を認めるものではありません。
 申請するには、以下の5つの条件を満たすことが必要です。

  1. 渋谷区に居住し、かつ、住民登録があること
  2. 20歳以上であること
  3. 法律上の配偶者がいないこと
  4. 2人の戸籍上の性別が同一であること
  5. 相手方当事者以外のパートナーがいないこと
  6. 近親者ではないこと

この条例がもたらした影響と問題点については、次の項目で述べることにします。 

本当に理解は進んだのか

1.情報の増加と理解

 確かに、この30年でセクシュアルマイノリティの理解は進んだと言えると思います。ただ、残念ながら、その理解の中には「誤った理解」も含まれているように思います。最近では、10年ぶりに改訂された辞書の新広辞苑に「LGBT」が収録されたものの、その説明に誤りがあることが発覚しました。情報を発信する側の辞書に誤りがあったのです。筆者の肌感覚で恐縮ですが、この30年は「セクシュアルマイノリティに対する認知が広がり、一部理解も進んだ」という表現の方がしっくりするように思うのですがいかがでしょうか。

 認知の拡大に寄与したのは、言うまでもなくインターネットと各メディアです。昔話になりますが、筆者が自分の性的指向に気づいたのは1980年(昭和55年)です。当然ながら、インターネットなどは存在せず、唯一の情報源は「ゲイ雑誌」のみでした。私が気づくきっかけになったのも雑誌です。ただ、当時の雑誌の半分は「文通欄(!)」に占められており、残りのほとんどは性的な内容。偏ったではありましたが、当時の私としては「自分は独りではない」という気持ちを持つことができました。

 一方、現在はインターネットで容易に情報を得ることができます。メディアで取り上げられることも多く、関連書籍も多く発刊されています。記事にある「最近の相談では自分を否定する内容は減った」のは、この情報の影響が大きいのではないでしょうか。自分の性的志向や性自認が他の人たちとは違うと気づいた時、ネットから得た「自分以外にもそのような人たちが大勢いるというのだ」という情報は、当事者を勇気づけたことでしょう。
 また、その功罪はともかく「LGBT」という言葉や「LGBTの割合は人口の8%」という情報が多く発信されたことは、セクシュアルマイノリティは思いのほか身近な存在であることを社会に印象付ける結果になったと思われます。

 ただ、その中には必ずしも正しいとは言えない情報が含まれていることには注意しなければなりません。誤った情報は、当然ながら正しい理解には結びつかなくなるからです。また、個人でも自由かつ容易に意見を発信できる時代ゆえに、傷つけられる意見に遭遇する可能性もあります。
 私も、この記事のようにインターネットで情報を発信する立場です。情報(事実)と自分の意見をしっかり分けながら、誤解を生まないように伝えていく責任を感じています。

2.性同一性障害特例法の意義と課題



 次に、記事にもある平成のトピックとして「性同一性障害特例法」と「同性パートナーシップ条例」の意義と課題について考えてみたいと思います。

 まず「性同一性障害特例法」がもたらした最大の意義は、「日本における正規の医療」によって性別適合手術を受けることができるということです。それは、非合法の手術を避けることができ医療的なリスクを軽減できるということです。さらに、その手術は美容目的ではなく「性同一性障害」の治療目的であるという位置づけによって、当事者以外の人々の理解を得られやすくなったということでもあります。
 一方で、「障害の治療」といういう位置づけは、同時に「性自認と身体の不一致は病気である」ということも指しています。「病気ならば仕方がない。治療して性別を変えても良い。」という理解は得られやすいかもしれません。しかし、性自認と身体の不一致を感じて苦しんでいる方々の中には、性別適合手術は受けたくないという方もおり、そのような方々への理解を妨げる可能性があるのです。さらには、性自認と身体が一致しているゲイ、レズビアン、バイセクシュアルに対する理解も難しくする可能性があります。
 一部医療(手術)が必要である人もいるが病気ではない、つまり、多様な性の問題は決して病的なものではないという理解を広く社会に得られるよう、制度の改訂と情報の発信が必要なのではないでしょうか。

3.同性パートナーシップの意義と課題

 同性パートナーシップ条例の施行による当事者のメリットとしては、ざっくり言いますと夫婦と同等のサービスを受けられるということが挙げられます。例えば、区営住宅への入居(渋谷区)、一部保険会社のサービス、携帯電話会社のサービス、社内での福利厚生、入院中の面会の同意などです。

 渋谷区の条例が施行された時にはメディアでは頻繁に取り上げられましたので、同性愛者の存在がクローズアップされました。ただ、そのことや夫婦と同一のサービスを受けられるということが、社会一般の理解を促進したとは必ずしも言えないように筆者は思っています。もちろん、この制度をきっかけとし、各企業が何かしらの対応に動いたということは大きな出来事です。企業が変わることで社会も変わる可能性があるからです。ちなみに、2017年(平成29年)11月現在、渋谷区の同性パートナー交付数は24組。施行から2年でのこの数字をどう捉えるか考えていくことも必要でしょう。

 夫婦と同じ権利を得ることで社会から認められると同時にサービスも得られるという、見ようによっては「異性愛者の夫婦関係」に寄せていくようアプローチするのか、セクシュアルマイノリティを含む広い意味での「おひとり様」を社会が認め制度を改定していくようアプローチするのか、今一度議論していく必要があるのではないでしょうか。 
 

3.これからの30年

 平成の30年は「セクシュアルマイノリティの認知拡大と一部の理解が進んだ30年」と筆者は位置づけました。これからの30年は「正しい知識の理解と浸透」さらには「制度の整備」が進むことを願います。
 「正しい知識の理解と浸透」については、セクシュアルマイノリティそのものの理解という切り口もあるでしょうし、人類全体の多様性という切り口もあるでしょう。また、制度についても同じで、セクシュアルマイノリティに特化したものから「おひとり様」全体を対象としたもの、両方の切り口での検討が必要かと思います。いずれにせよ、誰かは救えても誰かはそこから漏れてしまうということがないよう、十分な議論が必要な事は言うまでもありません。

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井上 伸郎

井上 伸郎

カウンセリングルーム「こころの案内人」の代表。ご相談者の「わかってほしい・解決したい・変わりたい」にお応えしながら、解決志向型カウンセリングによって「悩みの解決」や「目標達成」のお手伝いをしております。セクシュアルマイノリティの方々の支援も行っています。

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